Masukあの後グレンは一人で帰れそうにないミーナを家まで送り届け、今はこの町のはずれにある裏山みたいなところでパンをかじっていた。
(人の血を見た後によく飯が食えるな。) すると周りには誰もいないはずなのにどこからか声がした。 「…お前に言われたくない。」 誰もいない空間に対し返事をするグレン。端から見ると独り言を喋ってるかのようだった。 (ハハハ!それは違いねえな!てか昨日もそうだったがあの女、ミーナだったか?お前にしちゃ珍しく一人の女をやけに守ってたようだが何かあんのか?) 「…いや、別にない。ただあの女は俺に剣術を教えてくれた俺の師匠の娘だからだ。」 (あー、あのおっさんか…って、あのおっさん子供いたのか!?) びっくりしたのか声の主は思わず大声を出してしまったが周りに聞こえてはいけないためにグレンは胸を少し強めに殴った。 (あぁ、すまねえ。…それでお前がわざわざ一人の人間を助けるなんて随分優しいじゃねえか?) 「俺も一人の人間を助けるつもりなんてなかった。人間を助けたって得することはないからな。」 そう言うとグレンは手に持っていたパンを再びかじり始めるとそれ以上喋らなかった。 私は…二度も親友を失った… なんで?…なんでこんなことになるの? なんで不幸なことがこんな立て続けに起こるの?教えて?お父さんーー あれからミーナは学校でのショックが強すぎたため、帰ってきてからはずっと部屋にこもっていた。 母親が部屋越しから声をかけても返事をせず只々泣いていた。 昔撮ったお母さんとミーナそしてお父さんらしき人物が笑顔で手を繋いでいる写真を手に持って。 そして知らない間にミーナは泣き疲れて手に写真を持ったまま眠ってしまった。 気付いたらそこは真っ暗な空間に私はいた。 ここは、夢の中かな? けど何か不思議な感覚。 夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…これが夢なのかな? ミーナはよく分からないことをぶつぶつ言いながらその真っ暗な空間を歩いていく。 歩いて行くと真っ暗な空間から一人の男性が現れた。 その男性はグレンで黒いローブを着ていたが現実世界のグレンとは違い、黒髪で優しそうな顔をしていた。 「あなたは…グレンなの?」 朝に見たグレンとは全く異なる姿だったため戸惑いながら聞くミーナ。 そして目の前にいるグレンは優しそうに答えた。 「確かにここでも僕はグレンだ。君たちの言うところのね。」 「ここでも?君たちで言うところの?」 「うん。僕は本当の名前を悪魔に渡してしまったからね。全然覚えてないんだ」 「ちょっと待って!悪魔に名前を渡したってどういうこと?それにあなたはグレンなの?朝の時とは見た目も中身も全然違うし。」 グレンの言ってることを全然理解できないミーナ。 そんなミーナを見てグレンはクスッと笑う。 「確かにそうなるよね。分かった。順に追って話すよ。なぜ悪魔というものが存在する理由とかもね。」 「悪魔が存在する理由?」 「うん。10年前にね、僕は悲劇の国キュアリーハート出身なんだ。今は血の国レッドヘルになってるけどね。当時僕は兄と2人で過ごしてたんだ。あの悲劇の夜まではねーー」 夢の中のグレンは話した。 あの日の夜の赤い月と悲劇と残虐な悪魔の話。 グレンの話を聞く限りこの人は私なんかよりもずっとひどい目にあってるんだと。 自分なら耐えられるか…いや、まず精神を維持できないに決まってる。 「悪魔は本当に残酷だ。心を持たず、殺した人間を悪魔に変える魔法で繁殖し続け人間の不幸だけを望んで生きてる。」 「シェスカ達を悪魔に変えたあの人…あの人も元々は殺されて悪魔になってしまっただけの被害者なのかな?」 「多分そうだろう。最近殺された者は悪魔になっても知能は低い。だが10年前に殺された悪魔はシェスカ達よりもっと強いはずだ。…これを見てくれ。」 グレンはポケットの中から紙切れをミーナに渡した。 その紙切れには何かの魔法陣が書かれていて魔法が分からないミーナには読めなかった。 「それは僕が悪魔祓いになった時の契約書みたいなものだ。これは君が持っていてくれ。」 「え、契約書だったら自分で持ってた方が…」 するとグレンの目には涙が流れていた。そして 「いや、君が持っていてくれ。今の僕…現実世界にいるグレンは悪魔との契約で心と名前を失いそして人格まで奪われた。頼む…君がグレンを…本当の僕を取り戻して欲しい。あいつは多分朝までこの町の裏山にいると思う。もう…時間だ…また今度夢で会おう。」 「ちょっと待っ…」 そこでミーナの意識は現実世界に戻った。 「ハッ!…夢…なのかな?とても不思議な場所にいた気が…そういえば…」 ミーナは夢の中でグレンから貰った紙切れを思い出し、ポケットの中を探してみた。 ポケットの中からは広げるとA4サイズくらいになる大きさで紙には魔法陣が書かれている。 確か悪魔祓いになった時の契約書みたいなものだっけ? ーそうだ! 私は夢の中でグレンに頼まれたんだった。けど、どうすれば…私にはどうすることもできない… ミーナは起きてから少し考えると夢の中でグレンに言われたことを思い出し、出た答えが ーグレンと一緒に旅をする事。 けどそんな事お母さんが許してくれるかな? うちにはお父さんがいないから私まで出て行ったらお母さん一人ぼっちになる。 お父さん今どこにいるんだろう? 「ミーナ、起きてるの?起きてるなら朝ごはん食べなさーい!」 一階からミーナを起こすために母の大きな声が聞こえてきた。 「ちょっと待ってー!学校ないんだからもう少しだけ寝させてー!」 昨日グレンが学校を悪魔ごと燃やしたせいで止むを得ずミーナの学校は廃校となった。 生き残った生徒達や先生も他にいたが全員昨日の事件のショックでとても学校どころではなかった。 「何言ってんの!学校がなくても朝は早く起きてちゃんとご飯食べなさい!」 「はぁ~い…」 ミーナは寝起きの重たい体を立ち上がらせると目をこすりながら階段を降りた。 テーブルの上にはトーストの上に目玉焼きが乗ていてその匂いが食欲をそそり、ミーナはお腹をグーッと鳴らした。 その音が異様に大きかったため母は食べていたものを思わず吐き出しそうになった。 ミーナは顔を真っ赤にしそれをごまかすためにトーストを頬張ったがそれが余計面白いためお母さんは思わず吹いて笑ってしまった。 「オー!オハアハン(もう!お母さん!)」 「ごめんごめん。あまりにもミーナの顔が面白くてついね。さ、いつまでも頬張ってないで早く飲み込んでしまいなさい。」 そう言われてトーストを飲み込むと紅茶で流し込んだ。 母はいつもそうだった。 私が前の日に嫌な事があれば深刻な話より逆に私の気持ちを和ませて元気にしてくれるのだった。 どうしようもないときにそれをされるとすごくイライラしてしまうがそれでも私のためにやってくれてるんだって思うと嬉しい気持ちの方が強く、そんな母の事が好きです。 けど、私はそんな母に家を出るなんて言えない。 今まで散々お世話になったのにそんな勝手な事できるわけない。 そんな感情が頭の中で考えてしまう。 「ねぇ、ミーナ?」 「あ、はい!何?」 いきなり呼ばれてハッとするミーナ。 「あなた、何か隠してるね?」 「え?…急にどうしたの?」 「とぼけないで。知ってるのよ。今ミーナが何か悩んでるくらい顔見れば分かるのよ。」 顔を見たら分かるって…そんな私悩んでる顔してたかな? 仕方がない。言わないと…けど昨日のことはなるべく避けて言わないと。 「あのね、お母さん。私…旅に出たいの。」 怒られる…そう思ったが意外にも母は怒らずに落ち着いていていた。 「どうして?」 どうしてって言われてもなんて答えたらいいんだろう?グレンの事を言ったら絶対反対するし…悪魔の事を言ったら絶対反対するだろうし。 「…私ね、旅をしてこの国の外に出てみたいの。そしていろんな事をこの目で見て学びたい。だから…」 「…女の子1人でで旅するのなんて危ないからダメに決まってるでしょ!」 そう言って絶対怒るだろうなぁ。 そう思うとミーナは母の反応が怖くて体が自然と小刻みに震えていた。 しかし、母はそんな反応とは違う思いもしない返答を返した。 「ミーナ。あなたはやっぱりお父さんの子ね。」 「えっ?」 「行きなさい、ミーナ。旅をする事を許します。」 「ちょっ、ちょっと待って!そんなすんなり許してくれるの!?私女よ?普通反対するんじゃないのそこは?」 まさかすんなり許してくれるとは思わずミーナは驚き、母に尋ねた。 しかし、母はまた思いもよらない事を言った。 「確かにあなたは女の子よ。しかも朝はなかなか起きないし料理も洗濯も勉強もおまけに掃除もしないから部屋は散らかしっぱなしの散々手のかかった娘よ。」 そこまで私の事聞いてないのに…掃除は確かに苦手だけどさ… けどなんでだろ?それなら普通旅する事なんて反対するに決まってる。 「でもね、それは全部私のせいなのかもしれないわ。お母さんねあなたが心配で今まで必要以上に手をかけてたのかもしれない。でもそれじゃ肝心のあなたは成長するどころかいつまでたっても甘えてしまうわ。確かに旅は危険だわ。ましてあなたが旅をするなんて心配で本当はやめてほしい。」 「お母さん。」 「でも昔お父さん言ってたわ。旅をする事で見えないものが見えてくる。見た事ない景色、国、そして厳しい現実。それら全てを乗り越えて俺は成長できたんだと思うって。…だからね…あなたも旅をしてほしい。けど無理はしないで。ゆっくりでいいの。ゆっくりと旅して…私は成長したミーナをこの目で見る事を楽しみにしてます。」 「お母さん!」 私は母の言葉に思わず泣いてしまい、母に抱きついた。 そして思った。 絶対に成長してまた帰ってくると。 私は朝ごはんを食べてからすぐに旅の準備をするためにリュックの中に着替えや非常用の物を詰め込んだ。 すぐに旅に出てしまうのはちょっと急ぎすぎだと思うがそれだと間に合わない。 旅とはいえこれは夢の中のグレンとの約束だからグレンがこの町にいる間までに家を出なければならない。 母はというとそんな急ぎで旅に出るミーナに何も言わず、笑顔で玄関まで見送ってくれた。 「行ってくるね、お母さん。」 「風邪には気をつけるのよ。あとお金は余分にあるんだから食事はちゃんと取って体調管理にも気をつけるのよ。」 「うん、分かってる。」 「それと、あなたはいつも慌てん坊だから慣れない環境にいっても落ち着いて行動するのよ?」 「分かってるよー」 「それとあと…」 「もう!分かってるよ!じゃ、行ってくる!」 あまりにも長いので少し鬱陶しく思うミーナは最後の言葉を聞かずに母に背を向けて行ってしまった。 「…ミーナ。お父さんに会ったらよろしくね。そしてたくましくなって帰ってきてね。」 ミーナが見えなくなってから母は小さな声で最後の言葉を呟いた。 家を出てから数十分後、ミーナは元々学校が会った場所の近くの裏山に着いた。 山自体は大きくなかったのでミーナはそのまま山を登りすぐに頂上に着いた。 そこには昨日学校で悪魔になったシェスカ達を殺した黒いローブを身にまとった赤髪のグレンが待っていた。 グレンはミーナを確認すると相変わらず表情の変わらない冷たい目で見てきた。 夢で会ったグレンとはまるで別人のように見えた。 「やっと来たか。」 「えっ?来るの分かってたの?」 「あぁ、どうせ俺のもう一つの人格がお前を誘導したんだろう。あいつ、勝手にお前の方に移動しやがって…」 「あなたは夢の中のグレンを知ってるの?」 「知ってるとかじゃなくてあれは俺自身だからいわゆるもう一つの人格だ。ったく、まだ俺から主導権奪えると思いやがって…」 「え、主導権?」 「お前には関係ない。…もうそろそろこの町を出るぞ。」 すると急にグレンはフードを被り、空間に穴を開けた。 「こい、お前もどうせ俺についてくるんだろ?仕方ないから連れてってやる。」 「うん、よろしくね。」 ミーナはグレンが開けた空間の穴に近づき、その穴にグレンと一緒に吸い込まれた。 「くそ!逃げられたか!…どうしますか?」 グレン達が空間の穴を開けて吸い込まれて消えたすぐに何者かが息を切らしながら舌打ちをした。 そこには4、5人の騎士のような姿をしていてどうやらグレンを狙っているようだった。 するとその中にいる大柄なリーダーのような男が 「紅の悪魔祓い…今回も悪魔を殺したせいで罪のない市民の人々の命を…許さんぞ…この魔法騎士団 12騎士長(トゥエルブ・ナイツ)の私が必ず引っ捕えてやる!お前達!あの悪魔祓いが行くとこに先回りだ!」 「はっ!」 その男が命令すると他の騎士達と共に山を降りた。 穴に吸い込まれたミーナとグレンが出た場所はミーナ達の町である(クレーアタウン)よりも少し東の森だった。 その森は地面が見えないほど草がぼうぼうに生えていて周りは木がたくさんあって前が見えない状態だった。 「とりあえず巻いたな…行くぞ、女!」 「ちょっとまって。この靴じゃ歩きにくいからもう少しゆっくり歩いてー。」 ミーナのブーツは底が少し厚いため、歩くのには少し不向きだった。 しかし、グレンは相変わらずの愛想のない表情で 「さっさと歩け。置いてかれたくなかったらな。」 そういって歩く速さを変えないグレン。 ミーナは頑張ってその速さについていこうと必死に歩いた。 「グレンー。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ?」 「なんだ?」 「グレンの名前ってさ、昔悪魔と取引して無くしたんでしょ?」 「そうだ。それがどうした?」 「昨日グレン言ってなかった?グレンって周りが勝手につけたものだって。なんでグレンなの?」 確かに昨日グレンは本名を名乗らなかった。それは昔悪魔と取引したために名前を奪われたからである。 「…お前には関係ない。俺は名前なんてどうでもいいし周りがそう呼びたいなら勝手にすればいいと思ってる。」 「ふぅーん。」 グレンの冷たい対応にも少し慣れたのかミーナはサラッと聞き流した。 「…ちっ!また追ってか…もう一回空間移動するぞ!」 「え?追ってって何…て、わわわわ!」 グレンに無理やり押されてミーナは空間の穴に勢いよく吸い込まれ2人はその場から消えた。 グレンが移動したところはいつも中途半端なところだった。 どこかというと。 「何もないとこから人出てきたぞー!」 「魔法使いだ!初めて見た!」 「けどなんでこんなところに?」 そこはさっきの森を抜けると着く場所である町であったがグレンが変なところにワープしたため町の人達に余計な注目を浴びることになった。 ミーナは周囲に見られてると思うと恥ずかしさで頭がいっぱいになり挙動不審な動きをしている。 「グ、グレン…みんなに見られてるよ~…。な、なんでこんなとこに移動するのよ…」 一方グレンはこんな場面になったのにも関わらず一言。 「あ、ヤベ…間違えた。」 「無表情で間違えないでー!もう、どうするのよ!」 グレンのせいで更に人が増えてどんどん恥ずかしさが大きくなる。 「仕方ない、急いでたからな。…仕方ないからお前担いで逃げるか。」 「担ぐって…って、うわぁ!」 グレンはミーナを片手で持ち上げると脇腹に抱えて走った。 周りの人はいきなり走ってきたグレンにびっくりして道を開けた。 その時周囲の人たちは全員頭の中でこう思っただろう。 (…一体、なんだったんだろう?) 状況があまり分かってない町の人たちは唖然としていたがしばらくするとそんな事すぐ忘れて皆それぞれ自分の持ち場に移動した。 「ちょっとぉ!下ろしてよー!」 いつまでも担がれたままでは通りすがりの人からおかしな目で見られてしまうので下ろしてと頼むミーナ。 「ダメだ…追っ手が来てる。お前を下ろしたらすぐ追いついてしまう。」 「ねえ、さっきから言ってる追っ手って何?」 「っち…いつの間にここまで…もっかい移動するぞ。」 グレンはそのまま走ると目の前に空間の穴が開き、走りながらそのまま通過した。 移動した場所は最悪だった。 場所はこの町の建物の裏側で人気のない所だがそこには10人以上の騎士達と如何にも強そうな大柄なリーダーらしき人物がまるでここに移動することを予知していたかのように待ち構えていた。 「よく来たな、紅の悪魔祓い…グレン。」 大柄の男は左の腰に収納されている剣を抜くと両手で強く握りしめ構えた。 「ちっ!やっぱり騎士団か。」 「そうだ。俺は大国イフリークの魔法騎士団であるエバルフ・シュロン。貴様をずっと追いかけてきた者だ。大人しく捕まるがいい、人殺し!」 そう言うと10人の部下は一斉に剣を抜き、エバルフ同様剣を握りしめ、構えた。 グレンがずっと空間移動で逃げていたのはこの者達がグレンを狙っていることに気づいてたからである。 しかし疑問に思ったのはなぜ空間移動を使っているのにすぐ追いつくことが出来たのか。 「なんで追いついたか、そんな顔をしてるから教えてやろう。それは俺の部下の1人に未来を予知する魔導師がいるからだ。」 「予知だと?」 「ああ、そうだ。今までお前は近くに俺たちが近づくと空間移動でその場から一瞬で転移してにげる。…が、移動する場所は行き当たりばったりで回数と魔力にも限界がある。俺たちはそれを予知してこの場所に待機する事にした。そして…」 「転移なしのお前に勝ち目はない!」 エバルフはそのまま剣を振りかぶり、グレンに斬りかかろうとした。 しかし、グレンは一瞬で空間から大剣を出すとエバルフの剣を受けながした。 「…確かに俺はよく転移を使って悪魔と戦っていた。だが、お前は転移の事だけ囚われすぎて他のことは推測出来なかったみたいだな?…教えてやる。」 「俺は全ての属性を最上級で使う事ができるって事だ!」 この世の魔法は属性と魔力が備わっていないと魔法を使うことは出来ない。 魔法の源である魔力は人それぞれ質が違い、ランクで表すと 神級 最上級 中級 初級 と段階があり、大概の強い魔導師は最上級魔法を使う。 中級や初級に比べると広範囲に及ぶ魔法と圧倒的な力を駆使出来るがその分魔力の消費が激しく使いすぎると自分の身を滅ぼす事になる。 だから大抵の人は魔力の消費を抑えるために初級魔法や中級魔法を使って消費を抑えている。 次に属性は数十種類あり基本は人間1人につき1属性であり、複数持つ者もいるが使う魔力は1属性者に比べると2倍も魔力を消費する。 魔力の少ない者は二属性以上は使う事が出来ないので結果的に魔法を使う事が出来ない。 しかし、グレンはその摂理を無視し全ての属性とそれを全てにおいて最上級の魔法を使う事が可能なのである。 「ぜ、全属性だと…?ふざけるな、そんな人間いる者か!しかもその属性全てを、最上級魔法なんてまず魔力量から考えたとしても不可能に決まってる!ハッタリだ!」 グレンの言ったことを信じようとしないエバルフ。 多分エバルフでなくても他の者でも同じような反応をすると思う。 「ミーナ、ちょっと離れてろよ。」 「う、うん」 側にいたミーナは巻き添えを食わないためにグレンの後方に移動した。 グレンはミーナに安全な位置に離れているかどうか確認すると再び大剣を持ち。 「ハッタリかどうかは見てからにしろ。」 グレンは大剣を握りしめるとバチバチと剣全体が雷を帯びる。 その雷を帯びた剣を縦に振ると剣から雷の斬撃が発生し、地面をも切り裂くほどの威力でエバルフを襲う。 その斬撃をエバルフは剣で受け止め、受け止める際に防御魔法の様な者を剣に纏い雷をかき消した。 しかし、その威力は最上級魔法の一つなのでそれを止める魔力は相当なものだった。 「なんだ、あの威力は…」 「ほんの軽いウォーミングアップだ。今度は風の最上級だ。」 そう言うとグレンの全身から緩やかな竜巻が発生すると今度は身体能力が上昇し、目に見えない速さでその場から消えた。 「き、消えた…どこにいっ…」 消えた際に突風がエバルフを突き抜けた。 「ぐわぁっ!」 突き抜けた突風によって後ろにいる部下の1人が短い悲鳴を上げ、胸から血を吹き出しながら倒れた。 「な…何が起こっ…」 すると突風が止むと今度は部下全員を包み込むほどの竜巻が起こり、その勢いで発生したかまいたちの様なものが部下を切り刻んだ。 「お前たちーー!!」 竜巻は一瞬で部下を切り刻むとすぐおさまった。 すぐおさまったが斬られた部下たちはその場に倒れ込み、斬られても意識を保っていた者もいたが戦える状態ではなかった。 エバルフは斬られた部下たちを見て驚愕した。 まさかこれほどまで差があるとは… 「次はお前だな。」 するとエバルフの背後にはグレンが移動していた。 背後に取られたのを感じるとエバルフは咄嗟に距離を取って剣を構えた。 グレンはエバルフが離れると舌打ちをして言った。 「1人だけ、俺の竜巻をまるで予測したかの様に避けた奴がいた。」 「それは多分俺の部下のロフィスだ。あいつはこの中では俺の次に強い優秀な騎士だからな。」 「お前の次?今の竜巻はお前じゃ避けることが出来ないのにお前の次に強いのか?」 「何だと!?」 侮辱されたエバルフ。更に剣を握りしめ、剣先がプルプル震えていた。 「…まあいい。後で倒すだけだ。あぁ、安心しろ。今倒れた奴らは全員死んではいない。さあ、遠慮せずにかかってこい。」 挑発する様に少し口元を緩ませながら誘ってくるグレン。 その舐めた態度にイラっとしたエバルフは調子に乗るな!と言って剣を握りしめるとそこから竜巻が発生した。 「ならばこの俺も本気を出してやろう。疾風の12騎士長の力、思い知れ!」 エバルフは先ほどまでグレンが使っていた風の最上級魔法で一瞬で移動して見えなくなった。 エバルフはそのままグレンの背後に移動しそのまま剣を振り下ろす。 カキィィン! 「なっ!?…斬れない!?」 剣が当たっているのに斬られないどころか傷一つ付かないグレン。 「鋼属性の身体硬化魔法だ。こんなのは訓練次第で誰でもできる簡単な魔法だ。そんな剣じゃ斬れねーよ。」 グレンは斬りつけた状態のままのエバルフに抵抗することなく余裕があるのか魔法の説明までした。 するとグレンの体は液体みたいに変化し、その場に半径2メートルくらいの水たまりができた。 「何の真似だ!真面目に戦え!」 水たまりになったグレンを攻撃できないエバルフ。水たまりのところを踏み入れたその瞬間。 ズバババババーー!!! いきなり水たまりから出てきた水の槍が飛んできてエバルフは咄嗟の出来事に判断できずそれをまともに食らってしまった。 (なっ…何っ!?…) 「水の造形魔法だ。自分の体を液体、固体、気体に変化させることが出来る。」 そう言うと水たまりは浮き上がり出して次第にグレンの形に変わっていく。 水の槍によってダメージを負ったエバルフは立ってるのがやっとだった。 そしてこう思った。 ー殺される…このままじゃ殺される… そう思うとエバルフは体に力が入らなくなり、恐怖で震えてしまう。 「なんだ、怖気づいたか?まあ普通これだけ差を見せつけられればそうなるだろ。」 エバルフはグレンの強さに怯えてそのまま体が地面に崩れ落ちる。 (くそっ…情けない。何が12騎士長だ。何が市民のためにだ!目の前の敵に怖気づく奴がどの口で言ってるんだ…) もはやエバルフの頭には敗北の色で染まっていた。 ーもう何をやっても無駄だ。すみません、団長… 助けてー! エバルフの頭の中で突然女の子の声が聞こえた。 この声は…死んだ私の妹… するとエバルフの頭の中で昔の記憶が蘇った。 3年前、私の妹は黒いローブの男に悪魔もろとも殺された。 ー3年前 「お兄ちゃん、魔法騎士団ってどんな仕事なの?」 これはまだ俺が魔法騎士団に入ったばかりの新人だった頃、提出しなければならない書類を書いてると妹が勝手に自分の部屋に入ってきた。 妹はまだ7歳になったばかりで短いスカートをはいた年相応の子供っぽさがあった。 「こら、勝手に入ってきたらダメだろ?」 「ごめんなさい、お兄ちゃん。でも私、お兄ちゃんの仕事が気になって…」 エバルフ落ち込む妹を見て、書類の書く手を止めると妹の方を向いて。 「魔法騎士団はな、簡単に言えばヒーローなんだ。」 「ヒーロー?」 「そう。つまりこの国や家族、全ての人を守ることが俺の仕事なんだ。お兄ちゃんはそんなカッコいい人達に憧れてこの仕事を選んだんだよ。」 「ヒーロー!騎士団カッコいぃ!」 俺の言ったことに感動した妹は目をキラキラさせた。 昔の俺はどこか綺麗事のような事を言ってるが当時の私はこれぐらい純粋な夢があったのだ。 そう、この純粋な心をあの日潰されたんだ。一方、カイルとエミルは他の八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーと合流する為に移動を続けていた。そしてようやく辿り着いた時、目の前の光景を見て驚愕した。そこには。「え、何で?…何で、ゴウシさん達が…。クロツチさんまで!」「スイゲツさん!ルキアさん!ヒナタさん!」何と、先程まで特攻部隊を圧倒していた筈のしかも八握剣である5人が血を吐いて倒れていたのであった。何があったのか?それは、数分前に遡る。特攻部隊を倒し、次の地点へと移動を開始していた5人。5人はある1人の少女を見つけた。濃いピンクの髪を2つに括り、右目には白い眼帯を付けている少女。少し気が病んでそうな見た目をしていた。一見すると戦いには無縁そうな感じであったが、北の大国の象徴である純白の軍服を身に纏っていたが、女性の為か下は白いスカートになっていた。間違いなく、ウンディーネ軍の先行部隊。「ゴウシさん。ここは俺がやるよ。」そう言ってスイゲツは自身の刀を鞘から抜き、目の前の少女の方へと歩いていく。少女は何故か地面にへたり込んでおり、ビクビクと震えていた。「ヒィィ!ごめんなさい!ごめんなさい!」少女は怯えながらひたすらに謝り続ける。「え?」「私、もう戦えません。戦いが怖くて逃げてきたのです。…ですから私を、襲わないで下さい!」左目から涙を流しながら懇願する少女。足元には自分の武器らしい、白くて細長いレイピアが置かれている。「そう言われても、あんた敵だからな。」「そうですよね。私の言う事なんて、誰も信じないですよね?」すると少女は足元に置いていたレイピアを取り出した。それに気付いたスイゲツは刀を構えるも、少女の行動を見て立ち止まる。少女は手に持ったレイピアの先端を自分の首元に向けていた。「分かりました。私の事が信用出来ないと言うのであれば今ここで、死んで見せます!」「お、おい!やめろ!何も自分からそんな事する必要なんて…」スイゲツは自殺しようとする少女を止めようとするも、少女は笑顔で。「ううん、良いんです。それで私の疑いが晴れるのなら。」「さようなら。」そして少女は自分の喉元に向けたレイピアをそのまま強く刺した。ザシュッ!!「…ゴフッ!」血を吐いてその場に倒れたのは、スイゲツであった。「通りすがりの、剣士さん。」少女は自分の喉元を刺したまま、倒れた
瞬く間に特攻部隊は部隊長であるボルケニアと副部隊長であるガロウが倒された。特攻部隊の副部隊長は残り2人。その内の1人が報告を聞いて驚いていた。「何だと!ボルケニア部隊長とガロウがやられたと!?」「はい!やったのは八握剣(やつかのつるぎ)の奴らです!その他にも多数の死者が!」「奴らめ!バラけて動くのでは無く、纏って各個撃破を狙ってるのか?…だが、戦場で戦力を分散させないのは逆に言えば守りが手薄になってるという事。」「皆の者!このままノーム王が居る城に向かう!八握剣以外の侍は大した事は無いから、狙うなら今だ!」「「ハッ!!」」2人目の副部隊長であるエンジュは部下の軍人に向けて命令を下すと、それにより部下達の士気が上がり走り出す。手薄になった防御網を突破するのは今の内だと言わんばかりに。しかし、その考えは大誤算であった。北の大国は東の大国の戦力を八握剣(やつかのつるぎ)と裏切ったネルだけだと思っており、それ以外の戦力については考えていなかった。当然、カイル達が居る事なんて想像すらしていなかった。突撃していた部下達。すると突然、バタバタと部下達が倒れていった。「な、何事だ!?」副部隊長のエンジュは目の前で突如倒れ出した部下達を見て言った。「エンジュ副部隊長!前方に2人の影が見えます!」「何!?」目で確認すると部下が言った様に、そこには2人の人影が見えた。1人は身長が低いが2本の黒い刀を持った黒髪の男。もう1人は黒いタンクトップとショートパンツを履いた水色髪の女性であった。そう、カイルとエミル。2人は一緒に行動しており、先ほど部下達が急に倒れたのはカイルの影の円展開で、影に入った部下達を斬ったからだ。エンジュは目の前のカイルの服装を見て気付いた。「そのマントと黒い服。間違いない、お前はイフリークの騎士団団長!カイル・エリオン!」「何故イフリークの騎士団が東の大国側に!?」全く想定していない状況に理解が追いつかないエンジュ。それに対してカイルは答えた。「この戦争でこの国の被害を減らす為だよ。」「悪いけど、君達をノーム王の所へは行かせない!」そう言ってカイルは2本の黒い刀である暗影蛇と黒纏蛇を構えた。「お前ら!撃て!撃てぇ!!」エンジュは部下に発砲命令を下し、即座に部下達は銃でカイルとエミル達を撃ち始める。しかし、
魔導砲・アステリアにより、火の海と化したノームの街。大都会の象徴であった何十階もある建物はその威力によって高い部分は消失した。燃えた瓦礫が辺りに散らばった地面は、平和な国から地獄の戦場へと一気に変えられる。上空の魔導戦艦はその変わり果てたノームを見下す様に宙に浮いていた。そして魔導戦艦から放たれた無数の戦闘機は地上に向かって急下降し、機関銃の様な物を地上に撃ち放つ。ズドドドドドドド!!!!機関銃の様な物から放たれるのは1発1発が魔力の籠ったエネルギー弾であり、地上に撃ち込まれた部分からは爆発が連鎖的に起きる。徹底的にこのノームを潰そうとしているのが分かる。小国など武力の低い国はこの攻撃で大半が機能不全に陥るだろう。しかし、この東の大国ノームは違う。魔力で動かす機械や医療など、他国よりも繊細な技術面が発展している先進国である。当然、軍事に関する機械も最先端の技術が搭載されているのだ。東の大国には風狼機巧工房(ふうろうきこうこうぼう)と呼ばれる、飛行艇や四輪駆動車を製造する機巧工房が存在する。(第31話参照)性能重視で機械が造られている東の大国が誇る技術の叡智(えいち)がこの場所に保管されている。その機巧工房から東の大国が造り出した戦闘機が上空へ飛び立ち、北の大国の戦闘機へ向かって行く。北の大国の戦闘機が100機を超える戦闘機に対し、東の大国側の戦闘機は40機程度。圧倒的に戦力の差は北の大国が上である。しかし、それはあくまで戦力差の話。最新の技術を搭載された戦闘機はその戦力差すらものともしなかった。東の大国の戦闘機はステルス機能が搭載されており、その機能によって戦闘機は透明化する事が可能。それにより、視覚的に見えなくなったところで東の大国側の戦闘機が反撃を開始する。エネルギー弾も北の大国の戦闘機とは違い自動(オート)で狙いを定める為、どれだけ戦闘機を速く操縦してても狙いがブレる事は無い。透明化した状態のまま自動で相手の狙いを確実に定め、一方的に攻撃を仕掛ける事で数の戦力差を埋める。これが、技術力の高い東の大国の戦闘機の力。数の量産は難しくも、その機能性は北の大国の戦闘機を遥かに上回っていた。視覚的に確認出来ず、例え戦闘機に乗った操縦士の魔力を感知したところで、気付いた時には既に撃ち落とされてしまうのだ。そして全ての北
一方、魔導戦艦を撃破した東の大国側は更なる北の大国の攻撃に備えて避難誘導が行われていた。次も都市部を襲撃してくるであろう北の大国の動向を予想し、国民達は総面積20㎢あるノーム王の城の城壁内へと誘導される。勿論全員を城壁内に誘導は出来ない。そこでグロードやネルが持つ空間移動の力で、子供を優先して他国へ転移させる事にした。行き先は西の大国イフリークと南の大国シルフ。両国は復興作業が順調に進んでおり、既に避難の受け入れが整っている状態であった。カイルはイフリークの騎士団に。そしてシルフの王の証を継承したフィナは大国に連絡した事によりスムーズに避難誘導が行えている。そしてカイルの両親と妹のレイアはグロードに空間転移でイフリークに転移させられる予定であった。「父上、母上。レイア。戦争が終わったら必ず迎えに行くから。」「うむ。カイル、無事を祈る…。」「カイル…絶対に生きて帰って来てね。」小さく返事するカイルの父親であるが、やはり心配なのか表情は暗かった。母親のカルラはやはり心配であり、涙を流しながら言った。そしてレイアはカイルに抱きついた。「…お兄ちゃん」強く抱きしめるレイアはカイルの胸に顔を埋める。「…大丈夫。大丈夫だから。」そんなレイアに優しく頭を撫でながらそう言うと、レイアはゆっくりとカイルから離れた。そして視線を後ろに居るミーナ、エミル、ライク、ニケルに向ける。「ミーナちゃん。エミルお姉ちゃん。」まずはミーナとエミルに向かって言う。「レイアちゃん。…また戻ったら一緒にお話ししよ!」両手を膝に付き、少ししゃがんだ姿勢のまま笑顔で言うミーナ。「そうね。レイアちゃんも、気をつけるのよ。」レイアの頭をポンポンと撫でてあげるエミル。「うん!またいっぱいお話ししよ!」そして今度はライクに向けて言った。「ライクお兄ちゃん!無茶な事は絶対にしないでね!」「…無茶な事しねーと勝てねえんだよ。」相変わらず、レイアに対してもぶっきらぼうに返事するライクであるがその返事に泣きそうになりながら。「だって、ライクお兄ちゃん1人で突撃して行きそうで怖いんだもん!」「わ、悪かった!ちゃんと気を付けるって!」泣きそうになるレイアを慌てて宥めるライク。そして最後にニケルに向いた。「ニケル様…。」「レイアちゃん…。」レイアとニケルはし
他国への軍事侵攻と併合を繰り返すことで領土を拡大している巨大な大国。ここは北の大国ウンディーネ。魔力資源と軍事拡張を国家存続の核とする極端な軍事国家であり、その統治思想は「戦果こそが存在価値」という歪んだ成果主義で統一されている。戦争で功績を挙げた者は地位・富・名誉を得る権利が与えられ、失敗者や非戦闘員には価値がほぼ与えられない。戦争で功績を挙げられなくとも、国家の軍事力拡大に繋がる軍資金を納めれば国から認められる。この仕組みを国民達に徹底させる為、この国では目に見える形で国民を上級、中級、下級という風に位置付け差別化した。どういう事か?その位置付けは国民の居住地域で分けられた。上級は名前の通り、貴族や戦争功労者など富裕層を指す。中級の国民は主に庶民の人達であるが、この者達は努力次第では軍に入隊し功績を上げる事で上級へと位を上げる事が出来る。そして下級は名前の通り、国の中でも最下層の人間の事を指す。大抵の下級国民が暮らす場所は政府の目に届かない場所に位置している為、治安が悪く劣悪な環境。ここには国に対する反逆行為を行った者、犯罪を行った者、北の大国の軍事侵攻により領土を奪われたその土地の人達が住んでいた。以前ライクとニケル、グロードが北の大国に訪れた際に出会った孤児の兄弟も下級国民であった。(第24話参照)下級国民は全てにおいて最底辺であり、人権というものは殆ど存在しない。これは領土を奪った他国の人間が自国に対して反撃しない為の抑止力にもなるが、それだけでは無い。先程説明した様に中級国民も犯罪や反逆行為を行う事で下級国民に成り下がる可能性があり、国民はそれを恐れていた。ーーこんな底辺の人間にはなりたく無い。こうして劣悪な環境の中で過ごす最底辺に自分もなる可能性がある事を知らしめる。それにより、国民全員に危機感を持たせながら国の為に必死で働かせられるのだ。また、人間とは自分より下を見て優越感に浸る生き物。自分達よりも底辺の人間が居る事により優越感に浸らせれば、国民のストレスの捌け口は自然と下級国民へと移る。この「働き蟻の法則」にも似た様な差別化の仕組みが、北の大国という巨大な軍事国家を成り立たせていた。「軍事の為に働かざる者、人としての権利を得るべからず。」北の大国にはその様な言葉が昔からあった。この国民の差別化。一見
魔導戦艦。それは北の大国が保有する、空中を駆ける全長200m、全幅80m、全高75mを誇る巨大飛行戦艦である。戦艦の全方位には大量の巨大な大砲が敷き詰められてある。それら全て、[魔導砲・アステリア]と呼ばれる以前グレンが魔導兵器であるレイクと戦った時に使用されていた大砲が搭載されている。(第36話参照)軍事大国である北の大国ウンディーネ軍の技術開発局が開発したこの戦艦。実は東の大国ノームにとって因縁のある存在であった。「魔導戦艦。我ら東の大国の技術を盗んでそれを軍事転用した巨大飛行戦艦か。」バンジョウの言う通り、この魔導戦艦は約100年前に東の大国が開発した魔力式四輪駆動車の技術を改良されて作られた。100年前、東の大国ノームにやってきた北の大国ウンディーネ出身の亡命者が居た。ウンディーネは諸国周辺の国に戦争を仕掛けては勝利して自国の領土を拡大していく軍事国家であり、戦争は絶対正義であるかの様に指導される。戦争、又は軍事に反対的な意見を持つ人間は処罰の対象となる為、それが嫌で亡命する北の大国の人間は当時珍しく無かった。ノームはそのウンディーネからやってきた亡命者に仕事を与え、彼は元々軍の整備士の仕事をしていた為、機械的な物を作る仕事を与えた。しかし、これは大きな間違いに繋がるのであった。数年後、その亡命者は突如ノームから居なくなり、その数年後にウンディーネ軍がノームに対して戦争を仕掛けてきた。当時ウンディーネの魔導戦艦が、ノームで作られていた魔力式四輪駆動車と全く同じ技術を使用して作られていた為、それに気付いたノームの国民は怒った。ーー亡命してきたあの男は、我々の技術を盗む為のウンディーネ軍が遣わせたスパイだったのだと。そして100年前、この事がきっかけで北と東の大国は規模は小さいが戦争に発展しており、戦争が終結してからその後4大国間同士で不可侵条約は結ばれているが未だ北と東の関係性は悪いままである。(第16話参照)今までは嫌がらせの様な北の大国のミサイルを東の大国近辺に放っていたが、今回の様な魔導戦艦で領空に入ってきた事は一度も無かった。明らかな領空侵犯(りょうくうしんぱん)であり、東の大国ノームに対する威圧行為だ。到底許される事では無い。「このままでは国民が危険だ!一刻も早く迎え撃つ準備を!」ギンジは八握剣(やつかのつるぎ)
これは愛を知らずに育ってきた男の話。彼はこれまでの人生の中で物心ついた頃から愛という物に触れる事なく生きてきた。ネル・ナイトフォース。彼は5歳まで北の大国の中心都市部にある貴族の家で奴隷として過ごしてきた。物心付く前から奴隷として仕えていたが、そこでは人権というものが存在しなかった。「おい、ゴミ!さっさとこの食器片付けろよ!」その屋敷の主である中年男は仕える奴隷に向けて済んだ食器を片付ける様に命令した。「…はい。」命令を受けて出てきたのは当時4歳のネル・ナイトフォースだった。彼は肌着同然の薄い半袖の服にヨレヨレのズボンを履いていた見窄(みすぼ)らしい少年だった。身体を洗わせ
時は少し遡り、場面はミーナとイフリークの国民達に変わる。現在、彼女らはティラーデザートとは別の場所で窮地に立たされていた。大量の悪魔達が周囲を取り囲み、エミルと騎士団の人達が応戦している。それを何もできないまま只々見ているだけのミーナとイフリークの国民達。国民の中には、騎士達が守らず心臓を取られてしまう者もいた。何故、この様な事になったのか。どうしてティラーデザートから離れた場所にいるのか。現在に至るまで更に30分程、時間を遡る。シルフを目指し、猛暑の中を歩き続けるイフリークの国民達は途中で大きなクレーターを発見した。「何だ、この大きなクレーターは。隕石でも落ちたのか?」「
この時の俺はどんな人だったのか、今でも鮮明に覚えている。しかし、どうしても思い出せない事が1つある。自分の本当の名前だ。名前は悪魔祓いになったと同時に捨てたからだ。今も過去の記憶は覚えてても、自分の名前に関する記憶だけはどうしても思い出せない。覚えているのは、楽しかった日常が一夜にして地獄に変わってしまった事。そして…あの時俺を逃してくれた俺の兄の最後を、俺は今でも覚えている。11年前ーキュアリーハート。それは(癒しの心)という意味を込められた平和の国。この国は東西南北にある四大国の中心に位置している。四大国に比べて経済力があるとか、規模が特別大きいなどそういった事はなく
「月の民殲滅は確かにシルフの国王が提案し、様々な国の魔道士達を招集させて殲滅していく、というのが一般的に知られている事です。」 「はい、俺もそういう風に聞きました。」 「でも本当は違うの。シルフの国王は元々平和主義を心掛けていた心の優しい人で当時も月の民殲滅には反対していたのです。けど、あの男が来てからシルフの国王は変わりました。」 「それは、さっき言っていた思考を操る魔法か?」 フィナの口ぶりで何を言いたいのか察したグレンが口を挟んだ。 「はい。12年前に突然やって来たハイド・スペクターが原因だと思います。彼は何故なのか分かりませんが会った当初から国王に気に入られ、その日







