LOGINあの後グレンは一人で帰れそうにないミーナを家まで送り届け、今はこの町のはずれにある裏山みたいなところでパンをかじっていた。
(人の血を見た後によく飯が食えるな。) すると周りには誰もいないはずなのにどこからか声がした。 「…お前に言われたくない。」 誰もいない空間に対し返事をするグレン。端から見ると独り言を喋ってるかのようだった。 (ハハハ!それは違いねえな!てか昨日もそうだったがあの女、ミーナだったか?お前にしちゃ珍しく一人の女をやけに守ってたようだが何かあんのか?) 「…いや、別にない。ただあの女は俺に剣術を教えてくれた俺の師匠の娘だからだ。」 (あー、あのおっさんか…って、あのおっさん子供いたのか!?) びっくりしたのか声の主は思わず大声を出してしまったが周りに聞こえてはいけないためにグレンは胸を少し強めに殴った。 (あぁ、すまねえ。…それでお前がわざわざ一人の人間を助けるなんて随分優しいじゃねえか?) 「俺も一人の人間を助けるつもりなんてなかった。人間を助けたって得することはないからな。」 そう言うとグレンは手に持っていたパンを再びかじり始めるとそれ以上喋らなかった。 私は…二度も親友を失った… なんで?…なんでこんなことになるの? なんで不幸なことがこんな立て続けに起こるの?教えて?お父さんーー あれからミーナは学校でのショックが強すぎたため、帰ってきてからはずっと部屋にこもっていた。 母親が部屋越しから声をかけても返事をせず只々泣いていた。 昔撮ったお母さんとミーナそしてお父さんらしき人物が笑顔で手を繋いでいる写真を手に持って。 そして知らない間にミーナは泣き疲れて手に写真を持ったまま眠ってしまった。 気付いたらそこは真っ暗な空間に私はいた。 ここは、夢の中かな? けど何か不思議な感覚。 夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…これが夢なのかな? ミーナはよく分からないことをぶつぶつ言いながらその真っ暗な空間を歩いていく。 歩いて行くと真っ暗な空間から一人の男性が現れた。 その男性はグレンで黒いローブを着ていたが現実世界のグレンとは違い、黒髪で優しそうな顔をしていた。 「あなたは…グレンなの?」 朝に見たグレンとは全く異なる姿だったため戸惑いながら聞くミーナ。 そして目の前にいるグレンは優しそうに答えた。 「確かにここでも僕はグレンだ。君たちの言うところのね。」 「ここでも?君たちで言うところの?」 「うん。僕は本当の名前を悪魔に渡してしまったからね。全然覚えてないんだ」 「ちょっと待って!悪魔に名前を渡したってどういうこと?それにあなたはグレンなの?朝の時とは見た目も中身も全然違うし。」 グレンの言ってることを全然理解できないミーナ。 そんなミーナを見てグレンはクスッと笑う。 「確かにそうなるよね。分かった。順に追って話すよ。なぜ悪魔というものが存在する理由とかもね。」 「悪魔が存在する理由?」 「うん。10年前にね、僕は悲劇の国キュアリーハート出身なんだ。今は血の国レッドヘルになってるけどね。当時僕は兄と2人で過ごしてたんだ。あの悲劇の夜まではねーー」 夢の中のグレンは話した。 あの日の夜の赤い月と悲劇と残虐な悪魔の話。 グレンの話を聞く限りこの人は私なんかよりもずっとひどい目にあってるんだと。 自分なら耐えられるか…いや、まず精神を維持できないに決まってる。 「悪魔は本当に残酷だ。心を持たず、殺した人間を悪魔に変える魔法で繁殖し続け人間の不幸だけを望んで生きてる。」 「シェスカ達を悪魔に変えたあの人…あの人も元々は殺されて悪魔になってしまっただけの被害者なのかな?」 「多分そうだろう。最近殺された者は悪魔になっても知能は低い。だが10年前に殺された悪魔はシェスカ達よりもっと強いはずだ。…これを見てくれ。」 グレンはポケットの中から紙切れをミーナに渡した。 その紙切れには何かの魔法陣が書かれていて魔法が分からないミーナには読めなかった。 「それは僕が悪魔祓いになった時の契約書みたいなものだ。これは君が持っていてくれ。」 「え、契約書だったら自分で持ってた方が…」 するとグレンの目には涙が流れていた。そして 「いや、君が持っていてくれ。今の僕…現実世界にいるグレンは悪魔との契約で心と名前を失いそして人格まで奪われた。頼む…君がグレンを…本当の僕を取り戻して欲しい。あいつは多分朝までこの町の裏山にいると思う。もう…時間だ…また今度夢で会おう。」 「ちょっと待っ…」 そこでミーナの意識は現実世界に戻った。 「ハッ!…夢…なのかな?とても不思議な場所にいた気が…そういえば…」 ミーナは夢の中でグレンから貰った紙切れを思い出し、ポケットの中を探してみた。 ポケットの中からは広げるとA4サイズくらいになる大きさで紙には魔法陣が書かれている。 確か悪魔祓いになった時の契約書みたいなものだっけ? ーそうだ! 私は夢の中でグレンに頼まれたんだった。けど、どうすれば…私にはどうすることもできない… ミーナは起きてから少し考えると夢の中でグレンに言われたことを思い出し、出た答えが ーグレンと一緒に旅をする事。 けどそんな事お母さんが許してくれるかな? うちにはお父さんがいないから私まで出て行ったらお母さん一人ぼっちになる。 お父さん今どこにいるんだろう? 「ミーナ、起きてるの?起きてるなら朝ごはん食べなさーい!」 一階からミーナを起こすために母の大きな声が聞こえてきた。 「ちょっと待ってー!学校ないんだからもう少しだけ寝させてー!」 昨日グレンが学校を悪魔ごと燃やしたせいで止むを得ずミーナの学校は廃校となった。 生き残った生徒達や先生も他にいたが全員昨日の事件のショックでとても学校どころではなかった。 「何言ってんの!学校がなくても朝は早く起きてちゃんとご飯食べなさい!」 「はぁ~い…」 ミーナは寝起きの重たい体を立ち上がらせると目をこすりながら階段を降りた。 テーブルの上にはトーストの上に目玉焼きが乗ていてその匂いが食欲をそそり、ミーナはお腹をグーッと鳴らした。 その音が異様に大きかったため母は食べていたものを思わず吐き出しそうになった。 ミーナは顔を真っ赤にしそれをごまかすためにトーストを頬張ったがそれが余計面白いためお母さんは思わず吹いて笑ってしまった。 「オー!オハアハン(もう!お母さん!)」 「ごめんごめん。あまりにもミーナの顔が面白くてついね。さ、いつまでも頬張ってないで早く飲み込んでしまいなさい。」 そう言われてトーストを飲み込むと紅茶で流し込んだ。 母はいつもそうだった。 私が前の日に嫌な事があれば深刻な話より逆に私の気持ちを和ませて元気にしてくれるのだった。 どうしようもないときにそれをされるとすごくイライラしてしまうがそれでも私のためにやってくれてるんだって思うと嬉しい気持ちの方が強く、そんな母の事が好きです。 けど、私はそんな母に家を出るなんて言えない。 今まで散々お世話になったのにそんな勝手な事できるわけない。 そんな感情が頭の中で考えてしまう。 「ねぇ、ミーナ?」 「あ、はい!何?」 いきなり呼ばれてハッとするミーナ。 「あなた、何か隠してるね?」 「え?…急にどうしたの?」 「とぼけないで。知ってるのよ。今ミーナが何か悩んでるくらい顔見れば分かるのよ。」 顔を見たら分かるって…そんな私悩んでる顔してたかな? 仕方がない。言わないと…けど昨日のことはなるべく避けて言わないと。 「あのね、お母さん。私…旅に出たいの。」 怒られる…そう思ったが意外にも母は怒らずに落ち着いていていた。 「どうして?」 どうしてって言われてもなんて答えたらいいんだろう?グレンの事を言ったら絶対反対するし…悪魔の事を言ったら絶対反対するだろうし。 「…私ね、旅をしてこの国の外に出てみたいの。そしていろんな事をこの目で見て学びたい。だから…」 「…女の子1人でで旅するのなんて危ないからダメに決まってるでしょ!」 そう言って絶対怒るだろうなぁ。 そう思うとミーナは母の反応が怖くて体が自然と小刻みに震えていた。 しかし、母はそんな反応とは違う思いもしない返答を返した。 「ミーナ。あなたはやっぱりお父さんの子ね。」 「えっ?」 「行きなさい、ミーナ。旅をする事を許します。」 「ちょっ、ちょっと待って!そんなすんなり許してくれるの!?私女よ?普通反対するんじゃないのそこは?」 まさかすんなり許してくれるとは思わずミーナは驚き、母に尋ねた。 しかし、母はまた思いもよらない事を言った。 「確かにあなたは女の子よ。しかも朝はなかなか起きないし料理も洗濯も勉強もおまけに掃除もしないから部屋は散らかしっぱなしの散々手のかかった娘よ。」 そこまで私の事聞いてないのに…掃除は確かに苦手だけどさ… けどなんでだろ?それなら普通旅する事なんて反対するに決まってる。 「でもね、それは全部私のせいなのかもしれないわ。お母さんねあなたが心配で今まで必要以上に手をかけてたのかもしれない。でもそれじゃ肝心のあなたは成長するどころかいつまでたっても甘えてしまうわ。確かに旅は危険だわ。ましてあなたが旅をするなんて心配で本当はやめてほしい。」 「お母さん。」 「でも昔お父さん言ってたわ。旅をする事で見えないものが見えてくる。見た事ない景色、国、そして厳しい現実。それら全てを乗り越えて俺は成長できたんだと思うって。…だからね…あなたも旅をしてほしい。けど無理はしないで。ゆっくりでいいの。ゆっくりと旅して…私は成長したミーナをこの目で見る事を楽しみにしてます。」 「お母さん!」 私は母の言葉に思わず泣いてしまい、母に抱きついた。 そして思った。 絶対に成長してまた帰ってくると。 私は朝ごはんを食べてからすぐに旅の準備をするためにリュックの中に着替えや非常用の物を詰め込んだ。 すぐに旅に出てしまうのはちょっと急ぎすぎだと思うがそれだと間に合わない。 旅とはいえこれは夢の中のグレンとの約束だからグレンがこの町にいる間までに家を出なければならない。 母はというとそんな急ぎで旅に出るミーナに何も言わず、笑顔で玄関まで見送ってくれた。 「行ってくるね、お母さん。」 「風邪には気をつけるのよ。あとお金は余分にあるんだから食事はちゃんと取って体調管理にも気をつけるのよ。」 「うん、分かってる。」 「それと、あなたはいつも慌てん坊だから慣れない環境にいっても落ち着いて行動するのよ?」 「分かってるよー」 「それとあと…」 「もう!分かってるよ!じゃ、行ってくる!」 あまりにも長いので少し鬱陶しく思うミーナは最後の言葉を聞かずに母に背を向けて行ってしまった。 「…ミーナ。お父さんに会ったらよろしくね。そしてたくましくなって帰ってきてね。」 ミーナが見えなくなってから母は小さな声で最後の言葉を呟いた。 家を出てから数十分後、ミーナは元々学校が会った場所の近くの裏山に着いた。 山自体は大きくなかったのでミーナはそのまま山を登りすぐに頂上に着いた。 そこには昨日学校で悪魔になったシェスカ達を殺した黒いローブを身にまとった赤髪のグレンが待っていた。 グレンはミーナを確認すると相変わらず表情の変わらない冷たい目で見てきた。 夢で会ったグレンとはまるで別人のように見えた。 「やっと来たか。」 「えっ?来るの分かってたの?」 「あぁ、どうせ俺のもう一つの人格がお前を誘導したんだろう。あいつ、勝手にお前の方に移動しやがって…」 「あなたは夢の中のグレンを知ってるの?」 「知ってるとかじゃなくてあれは俺自身だからいわゆるもう一つの人格だ。ったく、まだ俺から主導権奪えると思いやがって…」 「え、主導権?」 「お前には関係ない。…もうそろそろこの町を出るぞ。」 すると急にグレンはフードを被り、空間に穴を開けた。 「こい、お前もどうせ俺についてくるんだろ?仕方ないから連れてってやる。」 「うん、よろしくね。」 ミーナはグレンが開けた空間の穴に近づき、その穴にグレンと一緒に吸い込まれた。 「くそ!逃げられたか!…どうしますか?」 グレン達が空間の穴を開けて吸い込まれて消えたすぐに何者かが息を切らしながら舌打ちをした。 そこには4、5人の騎士のような姿をしていてどうやらグレンを狙っているようだった。 するとその中にいる大柄なリーダーのような男が 「紅の悪魔祓い…今回も悪魔を殺したせいで罪のない市民の人々の命を…許さんぞ…この魔法騎士団 12騎士長(トゥエルブ・ナイツ)の私が必ず引っ捕えてやる!お前達!あの悪魔祓いが行くとこに先回りだ!」 「はっ!」 その男が命令すると他の騎士達と共に山を降りた。 穴に吸い込まれたミーナとグレンが出た場所はミーナ達の町である(クレーアタウン)よりも少し東の森だった。 その森は地面が見えないほど草がぼうぼうに生えていて周りは木がたくさんあって前が見えない状態だった。 「とりあえず巻いたな…行くぞ、女!」 「ちょっとまって。この靴じゃ歩きにくいからもう少しゆっくり歩いてー。」 ミーナのブーツは底が少し厚いため、歩くのには少し不向きだった。 しかし、グレンは相変わらずの愛想のない表情で 「さっさと歩け。置いてかれたくなかったらな。」 そういって歩く速さを変えないグレン。 ミーナは頑張ってその速さについていこうと必死に歩いた。 「グレンー。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ?」 「なんだ?」 「グレンの名前ってさ、昔悪魔と取引して無くしたんでしょ?」 「そうだ。それがどうした?」 「昨日グレン言ってなかった?グレンって周りが勝手につけたものだって。なんでグレンなの?」 確かに昨日グレンは本名を名乗らなかった。それは昔悪魔と取引したために名前を奪われたからである。 「…お前には関係ない。俺は名前なんてどうでもいいし周りがそう呼びたいなら勝手にすればいいと思ってる。」 「ふぅーん。」 グレンの冷たい対応にも少し慣れたのかミーナはサラッと聞き流した。 「…ちっ!また追ってか…もう一回空間移動するぞ!」 「え?追ってって何…て、わわわわ!」 グレンに無理やり押されてミーナは空間の穴に勢いよく吸い込まれ2人はその場から消えた。 グレンが移動したところはいつも中途半端なところだった。 どこかというと。 「何もないとこから人出てきたぞー!」 「魔法使いだ!初めて見た!」 「けどなんでこんなところに?」 そこはさっきの森を抜けると着く場所である町であったがグレンが変なところにワープしたため町の人達に余計な注目を浴びることになった。 ミーナは周囲に見られてると思うと恥ずかしさで頭がいっぱいになり挙動不審な動きをしている。 「グ、グレン…みんなに見られてるよ~…。な、なんでこんなとこに移動するのよ…」 一方グレンはこんな場面になったのにも関わらず一言。 「あ、ヤベ…間違えた。」 「無表情で間違えないでー!もう、どうするのよ!」 グレンのせいで更に人が増えてどんどん恥ずかしさが大きくなる。 「仕方ない、急いでたからな。…仕方ないからお前担いで逃げるか。」 「担ぐって…って、うわぁ!」 グレンはミーナを片手で持ち上げると脇腹に抱えて走った。 周りの人はいきなり走ってきたグレンにびっくりして道を開けた。 その時周囲の人たちは全員頭の中でこう思っただろう。 (…一体、なんだったんだろう?) 状況があまり分かってない町の人たちは唖然としていたがしばらくするとそんな事すぐ忘れて皆それぞれ自分の持ち場に移動した。 「ちょっとぉ!下ろしてよー!」 いつまでも担がれたままでは通りすがりの人からおかしな目で見られてしまうので下ろしてと頼むミーナ。 「ダメだ…追っ手が来てる。お前を下ろしたらすぐ追いついてしまう。」 「ねえ、さっきから言ってる追っ手って何?」 「っち…いつの間にここまで…もっかい移動するぞ。」 グレンはそのまま走ると目の前に空間の穴が開き、走りながらそのまま通過した。 移動した場所は最悪だった。 場所はこの町の建物の裏側で人気のない所だがそこには10人以上の騎士達と如何にも強そうな大柄なリーダーらしき人物がまるでここに移動することを予知していたかのように待ち構えていた。 「よく来たな、紅の悪魔祓い…グレン。」 大柄の男は左の腰に収納されている剣を抜くと両手で強く握りしめ構えた。 「ちっ!やっぱり騎士団か。」 「そうだ。俺は大国イフリークの魔法騎士団であるエバルフ・シュロン。貴様をずっと追いかけてきた者だ。大人しく捕まるがいい、人殺し!」 そう言うと10人の部下は一斉に剣を抜き、エバルフ同様剣を握りしめ、構えた。 グレンがずっと空間移動で逃げていたのはこの者達がグレンを狙っていることに気づいてたからである。 しかし疑問に思ったのはなぜ空間移動を使っているのにすぐ追いつくことが出来たのか。 「なんで追いついたか、そんな顔をしてるから教えてやろう。それは俺の部下の1人に未来を予知する魔導師がいるからだ。」 「予知だと?」 「ああ、そうだ。今までお前は近くに俺たちが近づくと空間移動でその場から一瞬で転移してにげる。…が、移動する場所は行き当たりばったりで回数と魔力にも限界がある。俺たちはそれを予知してこの場所に待機する事にした。そして…」 「転移なしのお前に勝ち目はない!」 エバルフはそのまま剣を振りかぶり、グレンに斬りかかろうとした。 しかし、グレンは一瞬で空間から大剣を出すとエバルフの剣を受けながした。 「…確かに俺はよく転移を使って悪魔と戦っていた。だが、お前は転移の事だけ囚われすぎて他のことは推測出来なかったみたいだな?…教えてやる。」 「俺は全ての属性を最上級で使う事ができるって事だ!」 この世の魔法は属性と魔力が備わっていないと魔法を使うことは出来ない。 魔法の源である魔力は人それぞれ質が違い、ランクで表すと 神級 最上級 中級 初級 と段階があり、大概の強い魔導師は最上級魔法を使う。 中級や初級に比べると広範囲に及ぶ魔法と圧倒的な力を駆使出来るがその分魔力の消費が激しく使いすぎると自分の身を滅ぼす事になる。 だから大抵の人は魔力の消費を抑えるために初級魔法や中級魔法を使って消費を抑えている。 次に属性は数十種類あり基本は人間1人につき1属性であり、複数持つ者もいるが使う魔力は1属性者に比べると2倍も魔力を消費する。 魔力の少ない者は二属性以上は使う事が出来ないので結果的に魔法を使う事が出来ない。 しかし、グレンはその摂理を無視し全ての属性とそれを全てにおいて最上級の魔法を使う事が可能なのである。 「ぜ、全属性だと…?ふざけるな、そんな人間いる者か!しかもその属性全てを、最上級魔法なんてまず魔力量から考えたとしても不可能に決まってる!ハッタリだ!」 グレンの言ったことを信じようとしないエバルフ。 多分エバルフでなくても他の者でも同じような反応をすると思う。 「ミーナ、ちょっと離れてろよ。」 「う、うん」 側にいたミーナは巻き添えを食わないためにグレンの後方に移動した。 グレンはミーナに安全な位置に離れているかどうか確認すると再び大剣を持ち。 「ハッタリかどうかは見てからにしろ。」 グレンは大剣を握りしめるとバチバチと剣全体が雷を帯びる。 その雷を帯びた剣を縦に振ると剣から雷の斬撃が発生し、地面をも切り裂くほどの威力でエバルフを襲う。 その斬撃をエバルフは剣で受け止め、受け止める際に防御魔法の様な者を剣に纏い雷をかき消した。 しかし、その威力は最上級魔法の一つなのでそれを止める魔力は相当なものだった。 「なんだ、あの威力は…」 「ほんの軽いウォーミングアップだ。今度は風の最上級だ。」 そう言うとグレンの全身から緩やかな竜巻が発生すると今度は身体能力が上昇し、目に見えない速さでその場から消えた。 「き、消えた…どこにいっ…」 消えた際に突風がエバルフを突き抜けた。 「ぐわぁっ!」 突き抜けた突風によって後ろにいる部下の1人が短い悲鳴を上げ、胸から血を吹き出しながら倒れた。 「な…何が起こっ…」 すると突風が止むと今度は部下全員を包み込むほどの竜巻が起こり、その勢いで発生したかまいたちの様なものが部下を切り刻んだ。 「お前たちーー!!」 竜巻は一瞬で部下を切り刻むとすぐおさまった。 すぐおさまったが斬られた部下たちはその場に倒れ込み、斬られても意識を保っていた者もいたが戦える状態ではなかった。 エバルフは斬られた部下たちを見て驚愕した。 まさかこれほどまで差があるとは… 「次はお前だな。」 するとエバルフの背後にはグレンが移動していた。 背後に取られたのを感じるとエバルフは咄嗟に距離を取って剣を構えた。 グレンはエバルフが離れると舌打ちをして言った。 「1人だけ、俺の竜巻をまるで予測したかの様に避けた奴がいた。」 「それは多分俺の部下のロフィスだ。あいつはこの中では俺の次に強い優秀な騎士だからな。」 「お前の次?今の竜巻はお前じゃ避けることが出来ないのにお前の次に強いのか?」 「何だと!?」 侮辱されたエバルフ。更に剣を握りしめ、剣先がプルプル震えていた。 「…まあいい。後で倒すだけだ。あぁ、安心しろ。今倒れた奴らは全員死んではいない。さあ、遠慮せずにかかってこい。」 挑発する様に少し口元を緩ませながら誘ってくるグレン。 その舐めた態度にイラっとしたエバルフは調子に乗るな!と言って剣を握りしめるとそこから竜巻が発生した。 「ならばこの俺も本気を出してやろう。疾風の12騎士長の力、思い知れ!」 エバルフは先ほどまでグレンが使っていた風の最上級魔法で一瞬で移動して見えなくなった。 エバルフはそのままグレンの背後に移動しそのまま剣を振り下ろす。 カキィィン! 「なっ!?…斬れない!?」 剣が当たっているのに斬られないどころか傷一つ付かないグレン。 「鋼属性の身体硬化魔法だ。こんなのは訓練次第で誰でもできる簡単な魔法だ。そんな剣じゃ斬れねーよ。」 グレンは斬りつけた状態のままのエバルフに抵抗することなく余裕があるのか魔法の説明までした。 するとグレンの体は液体みたいに変化し、その場に半径2メートルくらいの水たまりができた。 「何の真似だ!真面目に戦え!」 水たまりになったグレンを攻撃できないエバルフ。水たまりのところを踏み入れたその瞬間。 ズバババババーー!!! いきなり水たまりから出てきた水の槍が飛んできてエバルフは咄嗟の出来事に判断できずそれをまともに食らってしまった。 (なっ…何っ!?…) 「水の造形魔法だ。自分の体を液体、固体、気体に変化させることが出来る。」 そう言うと水たまりは浮き上がり出して次第にグレンの形に変わっていく。 水の槍によってダメージを負ったエバルフは立ってるのがやっとだった。 そしてこう思った。 ー殺される…このままじゃ殺される… そう思うとエバルフは体に力が入らなくなり、恐怖で震えてしまう。 「なんだ、怖気づいたか?まあ普通これだけ差を見せつけられればそうなるだろ。」 エバルフはグレンの強さに怯えてそのまま体が地面に崩れ落ちる。 (くそっ…情けない。何が12騎士長だ。何が市民のためにだ!目の前の敵に怖気づく奴がどの口で言ってるんだ…) もはやエバルフの頭には敗北の色で染まっていた。 ーもう何をやっても無駄だ。すみません、団長… 助けてー! エバルフの頭の中で突然女の子の声が聞こえた。 この声は…死んだ私の妹… するとエバルフの頭の中で昔の記憶が蘇った。 3年前、私の妹は黒いローブの男に悪魔もろとも殺された。 ー3年前 「お兄ちゃん、魔法騎士団ってどんな仕事なの?」 これはまだ俺が魔法騎士団に入ったばかりの新人だった頃、提出しなければならない書類を書いてると妹が勝手に自分の部屋に入ってきた。 妹はまだ7歳になったばかりで短いスカートをはいた年相応の子供っぽさがあった。 「こら、勝手に入ってきたらダメだろ?」 「ごめんなさい、お兄ちゃん。でも私、お兄ちゃんの仕事が気になって…」 エバルフ落ち込む妹を見て、書類の書く手を止めると妹の方を向いて。 「魔法騎士団はな、簡単に言えばヒーローなんだ。」 「ヒーロー?」 「そう。つまりこの国や家族、全ての人を守ることが俺の仕事なんだ。お兄ちゃんはそんなカッコいい人達に憧れてこの仕事を選んだんだよ。」 「ヒーロー!騎士団カッコいぃ!」 俺の言ったことに感動した妹は目をキラキラさせた。 昔の俺はどこか綺麗事のような事を言ってるが当時の私はこれぐらい純粋な夢があったのだ。 そう、この純粋な心をあの日潰されたんだ。ドグマに言われた通り朝の4時半に起きたグレンは、龍技の真髄の修行をする為にドグマの後ろに付いて歩いていた。早朝に起こされたにも関わらずグレンは眠そうな素振り1つ見せなかった。「初日で眠くはないのか?」「ああ。普段からあまり睡眠を取らない方だ。昨日はゆっくり出来た。」グレンは旅をしてる時もそうであるが、いつ自分の身に危険が起きても対処出来る様に熟睡は基本的にしない。その為、グレンにとっては明朝4時半と早い時間に起こされても睡眠時間的には十分であった。「…そうか。この程度なら生意気な口も普通に叩けるのか。よかろう、遠慮はいらんという事だな。」ドグマは余裕そうなグレンに対し、そう脅しをかける。「(そういえば、昔アガレフに修行を付けてもらう時も同じ様な事を言われたな。)」……思い出すだけでゾッとし、血の気が引いていくのが分かる。あの時は毎日失神するまでボコボコにされていたなぁ。アガレフの修行は本当にキツかった。「よし、着いたぞ。」真っ暗だった為、到着するまでどこを歩いているのか分からなかったが数十分後、ドグマが連れてきた場所は竜の遺跡にある川の上流の方だった。「川で修行するのか?」「そうだな。修行と言えば修行かな。足の裾を捲(まく)れ。今から川で魚を捕まえる。」そしてドグマはズボンの裾を膝上まで捲り上げると片足ずつ川に入っていく。そして川の真ん中辺りまで行くと水面の上で手掴みする様な構えをした。…バシャッ!素早く水面に手を突っ込み一瞬で掬(すく)い上げる。手のひらからはみ出そうな大きさの魚がドグマの手に捉えられ、捉えた魚を竹と藁で編んだ肩掛けの魚籠に入れる。そして再び魚を捕まえる構えに戻った。「…何してる?お前もやらんか。」「あ、ああ。」グレンもドグマと同じ様にズボンを膝上まで捲り上げて川に入ろうと右足を水につける。「うっ!……」あまりの冷たさに声が出てしまうグレン。朝方の気温の低い山奥の川の水。冷たくない訳が無い。「冷たいだろ?因みに魔法は一切使うなよ。修行にならんからな。」「…いや、魔法使わないと見えねえよ。」只でさえ冷た過ぎる水に慣れない中、真っ暗な時間帯で水中の魚が見えない。しかも道具は一切使わず難易度の高い手掴み漁。目を凝らして水面を見るが当然見える訳が無い。グレンは困惑してる中、隣でドグマは流れ
時は遡る事3日前。この日はカイル、エミル、ミーナが東の大国に到着したばかりの日であった。しかし、ここは北の大国と東の大国よりも更に北東部の奥にある場所。そこは一般の人が立ち入ると必ず道に迷うとされる竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)]と呼ばれる森林があった。その森林の中にある地面は深い裂け目や溝が幾筋も走り、獣道や細い道がそれに沿って複雑に分岐している。道はまるで生き物のように折れ曲がり、進んだはずの者を同じ場所へ戻し、方角の感覚を狂わせる。異常な磁場がコンパスの指針も狂わせる為、人の五感や魔力の流れを読めない人が立ち入れば一瞬で迷路へと変わる場所。この森林の中に1人の男が歩いていた。彼の名前は紅の悪魔祓い(デビルブレイカー)グレン。彼はレミールでミーナ達と合流したのだが、そこの国民に国を守る様に提案される。しかし、それを拒否したグレンは国民に危害を加えられた挙句、抵抗すると悪魔と言われて非難された。そしてグレンは自分のせいでミーナに危害が加わると考え、自ら1人になる道を選んだのだ。では何故彼が今この森林に居るのか?(おい、いい加減にしろ!いつまで歩き続けるつもりだ?もうかれこれ3日は歩いてるぞ?)グレンの中に居る悪魔、リフェル。本名強欲のマモンが話し掛ける。グレンはこの竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)に立ち入ってからかれこれ3日は経っていたのだ。「……この森、まるで生きてるみたいに場所が変化してる。ずっと同じところをグルグル回らされているみたいだ。」木々に囲まれて複雑に分岐した細い道を辿っていくも、いつの間にか元来た道に戻っている。更に元来た道をよく確認すると木々の形や生え方、地面の裂け目の形が少し違っていた。(何回この道来るんだよ!もう100回くらいこの光景見てるぞ!)「……いや、違う。よく見てみろ。この地面と木の並び方。少し違って見えないか?」(は?そんなもん覚えてる訳ないだろ!)「最初来た時はこの地面の裂け目は3本だった。だが今は2本。木も1本1本捻れてたのが真っ直ぐになってる。」(…長い事同じ光景を見て疲れてんのか?…いや、待てよ…グレン、何が言いたい?)何かに気付いたリフェルはグレンの考えを聞く事にした。「多分だが俺達が前に進めば進む程、木や道の形が変化して最初来た時と同じ光景を見せられる。けど、地面
悪魔に襲撃されたクレーアタウン。 アスモディウス達との戦闘により、平和だった町の殆どの建物は半壊している。 今すぐ普通の生活に戻れそうには無かった。 ゴウシが東の大国ノームに救助を要請したお陰で、大型のバスの様な魔力式四輪駆動車が到着。 その中から現れたのはノームの救護隊員達であった。 救護隊員達は生き残ったクレーアタウンの人達を誘導し、自分たちが乗ってきた四輪駆動車の中に乗せていく。 クレーアタウンが復興するまでは東の大国が責任を持って町の人達を守るつもりだった。 アガレフという父親を失ったミーナと、母親のリーナ。 リーナはまだ立ち直れず座りながら俯いていた。 無理もない。17年間、愛して待ち続けた夫が目の前で跡形もなく消えたのだ。 簡単に立ち直れる筈が無い。 そんなリーナの側にミーナはつき、一緒に横に座っていた。 一方カイルはエミルの隣に立ち、目の前にはライク、ニケル、フィナが順に並んで2人と対面していた。 「改めてお久しぶりね、カイル君。」 フィナはカイルを見て挨拶した。 さっきはミーナの父親の件もあり、互いにそれどころでは無く再会の挨拶をする間が無かった。 「まさか、フィナさんが2人と一緒に居たなんて知りませんでした。」 カイルはシルフで別れた筈のフィナが、月の民である元盗賊のライクとニケル。2人と行動を共にしてる事に驚いていた。 するとフィナはエミルの方に視線を移す。 「あなたがライクとニケルが言ってたエミルさんね。私はフィナ・プロミネンス。宜しくね。」 「こちらこそです。エミル・ウォーマリンと言います。……ライクとニケルも、久しぶりね。」 少しよそよそしく2人に言うエミル。 一応、ティラーデザートでエミルはライク達に「裏切り者扱い」されて離れる事になった。 当然エミルも言われて当然だと思っている。 カイルと戦ってくれた時は必死だった事もあって、あまり気にしていなかった。 しかし今になって冷静になると、どんな顔をして2人を見れば良いのかエミルは分からなかった。 そんなエミルの悩みを掻き消すかのように2人は笑いながら。 「エミルも、元気そうで何よりだよ。」 「けっ!何辛気くせー顔してんだよ!」 ニケルは笑顔でそう言うと隣のライクは頭に手を組みな
場面は変わりミーナに会わせて欲しいと訴えるリーナを抱えながら、フィナはライク達の後を追っていた。フィナの"陽"の力は短距離で時間をコントロールして戦うのに向いている為、ライク達に比べると遠くへ移動するのはそれ程速くは無かった。それでもフィナの足は早く、時間のコントロールによってミーナ達とは10kmほど離れていたが5分くらいで近くの地点まで辿り着いていた。「リーナさん!もうすぐですからね!」「ありがとうございます!」フィナが走っていると、少し離れた場所で巨大な光の爆発が起こったのが見えた。「あの爆発は一体…」「…ミーナ。」その時は丁度、アスモディウスに魔力操作"極"の力によって光の爆発を起こした時だった。目の前で起きた光の爆発を見たフィナとリーナ。リーナはフィナの背中に抱えられたままミーナの無事を祈り、そのまま彼女達の戦場へと近づいていく。バタッ。ミーナはうつ伏せのまま地面に倒れ、持っていた刀が右手から離れる。刀の刀身が地面に当たると、当たった部分から刀身がバラバラに崩れていった。魔力操作"極"で刀に膨大な魔力を込めた事で、刀に大きな負担が掛かっていたからだ。ミーナのその姿を見たアスモディウスは先程まで息を切らして焦っていたが、この光景を見るや急にニヤケ始めた。「ミーナァァァ!!!」「ミーナちゃん!」エミルとカイルは走りながら倒れたミーナの方へと走る。しかし、魔力も使い果たし体力の限界だったエミルは早く走れない。「クソ!俺も身体が痛くて動けねぇ!」「まずい!あのままじゃ、あの子が殺されてしまう!」ライクとニケルも同様、雷神と風神の反動とカイルから受けたダメージにより今は動ける状態では無い。辛うじて生きながらえたアスモディウスがミーナの1番近くに居た事で、ミーナは絶対絶命のピンチに陥っていた。「…あれぇ?もしかして、動けない感じ?私、ヤバいと思ったけど。」するとアスモディウスは指をパチンと鳴らした。死者蘇生で蘇った死者達を操る合図だ。ミーナの消滅の光はアスモディウスのみを対象にしていた為、死者達はそのまま残っていた。「勝負では私に勝ってたのに、なんとまあ……残念だったね!小娘がぁ!戦場で気絶する方が悪いんだよ!恨むなら、自分の間抜けさを恨みなさい!」「おい、役立たずの屍(しかばね)共!この小娘をグチャグチャにし
するとベルゼバブが出てきた方とは逆の奥の方から別の足音が聞こえてくる。あの時は魔法が使えなかったから分からなかったけど、ただならぬ魔力を感じる。しかし、悪魔の様な不気味な魔力では無い。温かみのある優しい光の様な魔力。その魔力を持った人…人では無いが、ミーナとベルゼバブが居る方へ歩いてきた。「久しいのう。ミーナ。」その姿は以前ミーナと精神世界で対面した時に見せた、ミーナと全く同じ姿の状態のエル(ミカエル)が暗闇から現れた。「あなたはエル…」「な、何で!?何で君が居るの?大天使・ミカエル!」ベルゼバブはミーナの姿をしたミカエルを見て驚きを隠せなかった。普段無邪気に相手を挑発したりするベルゼバブが焦りを感じている。悪魔にとって天使という存在は、嫌悪を抱くと同時に恐怖の対象でもあった。ベルゼバブに視線を移すミカエル。「そなたはベルゼバブ。妾はこのミーナと共存してるのじゃ。…この姿じゃ、ややこしいな。」そう言うとミーナの姿をしたミカエルは変化していく。そしてミカエルは姿を見せた。白銀の長い髪を風に揺らし、透き通る青い瞳で静かに微笑む天使の翼の女性。白を基調とした和の装いには淡い金の煌めきが散り、腰紐と房飾りが上品に揺れる。大きな白い翼を広げたその姿は、神域の気配そのものだった。「それが本当のエルの姿…本当に天使みたいだ…」ミーナは天使の姿のミカエルに驚いていたが、その神々しい姿に見惚れいた。「天使みたいでは無い。妾は天使なのじゃ。」ニコリと微笑みながらミカエルは言った。柔らかいその表情と立ち姿はその名の通り天使と呼ぶに相応しく、一つ一つの言葉や所作が周囲をまるで温かく包み込むかの様である。その温もりは暗闇の精神世界が天国の様に思える程だ。「大天使がミーナの中に居たなんて…まさかとは思うけど、君の力を彼女に貸し与えてたりしないよね?」「妾の"恩恵"の力か?ええ、そうじゃ。妾の力を与えた事でミーナは力を使えるぞ。」何てこった…と言わんばかりの顔をしながらベルゼバブは手を頭に抱えた。何故ベルゼバブが頭を抱えてるのか分からないミーナ。「え、何か不都合な事でもあるの?」「不都合といえば、不都合かな…天使は僕達悪魔の魔力を凌駕するからね。何も対策しなければ、悪魔は天使によって一瞬で消されてしまう。」ベルゼバブの言う通り、一度
ミーナ達3人が戦っていたその頃。東の大国で元八握剣(やつかのつるぎ)であったギンジはミーナの母であるリーナを連れながら、他にも生き残ってるであろうクレーアタウンの市民を探していた。生き残っていた市民は結構居た為、全員助けに来てくれたギンジの後ろをゾロゾロと歩いて着いて行く。そんな中で思わぬ人物に出会った。その人はギンジにとってあまり会いたく無い人物。「ギンジ!お前、こっちに来てたのか!?」の太く低い声の主である彼の名前はゴウシ。八握剣(やつかのつるぎ)の土刃(どじん)と呼ばれる男である。見た目年齢が30代後半は過ぎてるであろうゴウシは、ベリーショートの茶髪に整えられた茶髭。八握剣のバンジョウやスイゲツと同じ侍の様な服装をしているが、体型はガタイが良いと言うよりも巨漢に近かった。丸太の様に太い腕に、武器は刀では無く斧を背中に担いでいた。「ゴウシ…そういえばスイゲツの奴が言ってたな。」ギンジはゴウシの事を嫌そうな目で見ながら東の大国ノームでスイゲツが言っていた事を思い出した。「はい!先程八握剣の土刃、ゴウシ様から連絡がありまして。最近東の近隣の国が悪魔に襲撃されているとの事です!」スイゲツがあの道場で報告した内容の発信源は確かゴウシであった。市民を助ける為の人手が足りない現状ではとても頼りになる存在であるが、国を出るつもりのギンジにとっては不都合でしか無かった。どうせこいつも八握剣(やつかのつるぎ)に戻れって言うに違いない。「お前が居てくれて良かった!ギンジ、俺もこの町の人達を助けたい!だから協力させてくれ!」しかし、ゴウシから出てきた発言はギンジの予想とは違っていた。「何だ、俺の事を引き留めようとしないのか?」「いや、今はそんな場合ではないだろう?そりゃ、お前には戻ってきて欲しいが、それよりも先に今はやるべき事があるだろ。」ゴウシは八握剣の中でも正義感が人一倍強く、真っ直ぐな性格であった。その正義感に加えて人々の為に今自分に何が出来るのか、常に考えて行動出来る人である。しかし、不可解な事が一つあった。「確かゴウシが居る場所はここよりも数km離れていた場所だ。どうやってここまで来た?」高速移動や転移魔法を使えないゴウシには一瞬でここまで来る移動手段が無かった筈だ。ーーどうやってここまで来た?こいつはこの町には居ないと思